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「従業員の幸せがお客様より大事」? 従業員の多様な「物語」が尊重される飲食業界の「異端児」

作成者: JobRainbow|Jul 31, 2022 5:30:49 AM

株式会社物語コーポレーション

 

今回は、飲食業界の「異端児」として名をはせる株式会社物語コーポレーションの代表取締役社長CEO、加治幸夫さんにお話を伺いました。
JobRainbowとともにLGBTフレンドリー企業として歩みを続ける物語コーポレーション。その成長の秘密に迫ります。

 

ダイバーシティを重視する背景

物語コーポレーションとして、JobRainbowを利用するきっかけはなんだったのですか?

加治さん(以降略):元々、物語コーポレーションは多様性の価値を重んじる企業でした。インターナショナル(外国籍)社員の採用や、プロパー(新卒)社員とキャリア(中途)社員を半々にするなど、多様性を重視しながら会社を経営してきました。

というのも、70年前に前会長の小林(現特別顧問)が母の経営するおでん屋で、社員たちが「昨日はこうだったから、今日はこうしよう」と家族のように喧嘩しながら意見をぶつけ合っているのを見て、会社・店はこういう関係でいられることが必要だと思ったそうです。
実際、飲食業は大量生産してそれを一気に売るというより、「今日来ていただいたお客様をいかに満足させるか」「「明日もうまくいく保証はない」しごとです。だから、毎日社員全員で試行錯誤しながら商売することが必要不可欠です。

 

それとダイバーシティがどのように関係するのですか?

協力しあう社員・従業員たちは、実のところ他人同士の集まりです。だからこそ、信頼に基づいたコミュニケーションが不可欠であり、それには個が尊重されるダイバーシティが実現された環境が重要です。
工場など作り手が見えないところで生産されるものは従業員が不仲でも売り上げに左右しませんが、飲食業においてはそうもいきません。しかも各店舗で事情は違いますし、100軒集まれば1軒1軒の事情が100個集まるだけで、100軒になったから1店舗の関係が薄まるわけではありません。

 

なぜLGBT?

では、LGBTに関して取り組みを始めた直接的なきっかけはなんだったのでしょうか?

ある担当者がLGBTの方と面接した際、知識のなさゆえに相手の気分を害してしまったことがありました。その反省を活かし、LGBTに関する情報を調べるなかでJobRainbowがヒットしました。

私は、LGBTに対する取り組みにおける当社側の課題は2つあると思いました。
まず1つは、ダイバーシティが大事だと考えていても、知識がなければ自信を持って対応できないこと。もう1つは、当事者とじっくり対話してみないと、想像しかできず実際に効果的かわからないこと。
でもJobRainbowの勉強会などで知識を得ると、「そうなんだ!」の後、「でもそんなこと、ちょっと考えたらあたりまえだな……」と痛感します。LGBTについて知らないからといって勝手に考えることをやめてタブー視していた自分達に気づき、社内の制度を見直すきっかけが生まれました。

 

取り組みを始めた後の変化

現在私たちJobRainbowは、複数回の研修や、同性パートナーシップ制度・社内の差別禁止規定の設計といったトータルサポートを提供しています。具体的にこの1年で変化を感じたことはありましたか?

女性であることへの違和感を抱いてきた社員が、今は周りの理解と協力を得ながら自由に過ごせるようになったと教えてくれました。傷つけないようにと腫れ物に触るようにではなく、オープンにこうした話をできる風土が醸成されたことは大きな前進です。
また、社内では「同性婚」を「ライフパートナー」と呼ぶことにしたうえで、結婚と同様に会社全体で協力・支援するよう規定を変更しました。

 

実際に申請があったそうですね。

はい。その社員はレズビアンをカミングアウトしており、私たちが開催している「明言・提言選手権」ではFC加盟企業様、社員とそのご家族1600人の前で「物語コーポレーションの中にダイバーシティ&インクルージョンの部門を作り、100人いたら100の才能があるなかで、それらを発掘・育成できる体制を作るべきだ」と主張し、優勝しました。

 

LGBT向けの制度があっても当事者が声をあげづらい、という企業も多い中で、1年でここまで前進できたのは元々物語コーポレーションさんがダイバーシティに対して強い思いがあったからこそです。社長として意識してきたことはありますか?

物語コーポレーションは、一人ひとりの「物語」が集まってできています。これが社名の由来ですから、会社に入ったからといって個性を捨てる必要はありませんし、経営理念である「Smile & Sexy」つまり、心身ともに素敵に自由に正々堂々、人間味豊かに自分の「物語」を表現できる人財であってほしいと願っています。
そして、会社の経営にそれぞれの「物語」をどう活かすか考えることは必要です。
私は経営者として、個人の幸せ・顧客満足・会社の成長が大事だと考えています。どれも欠けてはいけない三位一体の世界観です。顧客満足がないと会社はうまくいかないですし、顧客が満足して業績が上がっても、個人が幸せでないと企業は長続きしません。

では、会社における「個人の幸せ」とはなんでしょうか?

私は3つあると考えています。
1つは、個人としての尊厳が尊重されていると実感すること。新入社員もLGBTも、外国人も障がいがある人も、個人は個人として尊重されなければいけません。2つ目は、生活の質の向上を実感すること。豊かな生活を送ることで自分自身の尊厳が保たれます。最後は、自分のアイディアが仕事で採用されたり、実績を残したりすることで達成される自己実現です。
この3つからなる個人の幸せを、業績や顧客満足にどう繋げるかを日々考えています。

 

「従業員の幸せがお客様より大事」?

 

正直、飲食業界にはどこか閉鎖的なイメージもあります。例えば、一人孤独に店舗を回している牛丼屋の店長さんがハッピー!とはあまり感じません。
しかし、物語コーポレーションさんの運営する店舗では息がつまる感じが一切ありませんでした。メニューもクリエイティブで、お肉の部位や食べ方も様々……でもこれって、社員の方に余裕があるからこそ「こんなメニューはお客様に喜んでもらえそう」と考えられるんですよね。

そうですね。飲食業界は特に流行り廃りのサイクルが早い業界ですので、半歩先のことをし続けないと生き残っていけません。だから決まった人がいつも決めるのではなく様々な立場の人が寄ってたかって意見を言い、議論を交わし、1つの意思決定を導き出します。例えばフランチャイズの加盟企業さまから意見をもらったり現場の従業員が提案したり、店舗に設置している意見ボックスから全従業員の改善提案やアイディアを募るなど、全社丸ごと開発者集団を目指しています。小さな意見は毎月120くらいあって、やる・やらないを選別しています。

120ですか……すごいですね。

集めた意見を見てみると、最近お客様の要求はおいしい・かわっている・めずらしい・何グラムいくら、という「モノ」から、食べていて楽しい・嬉しいといった「体験型」にシフトしています。実際、今の時代まずいものなんてほとんどありません。だからこそ、美味しいものを安く提供して「美味しいでしょ」だけでなく、店員さんに優しくされた、などの体験がないと記憶に残りません。そして、記憶に残らない商売は会社の成長にもつながりません。真の顧客満足は「美味しい」だけじゃなく、「思い出に残る」「ハッピーになる」です。

 

飲食に限らず、サービス業界がどうあるべきか、考えさせられますね。

そもそも、「従業員満足」は「お客様満足」より先にあるべきだと考えています。毎日不満な従業員に対して「隣の店より時給10円高いんだから笑えよ!」と言ったところで無理な話です。従業員が満足できる環境があって初めてお客様に満足していただけるのではないでしょうか。

 

ダイバーシティ先進企業としてのアドバイス

 

ダイバーシティを大切にする世の中になりつつある一方、LGBTについては及び腰な企業も多いです。そうした企業が一歩前に進むには、どうマインドチェンジすればよいのでしょうか。

 

LGBT云々の前に、個人の尊厳が大事にされているか、一人ひとりが意見を言いやすい環境かが重要だと思います。デスクで隣同士の社員がお互いのことを何も知らず、挨拶もせず、喋るのはメール上だけって会社では、周囲だけではなく社員からも「なんで突然LGBTや障がい者“だけ”対応するんだ?」と思われてしまいます。
逆に言えば、個人を大事にする企業であれば、一人ひとりが意見を言いやすく、その延長線上にLGBTの話が必然的に出てくるでしょう。

 

日本には、「男/女らしさ」に囚われる苦しみを感じつつ、「でもL・G・B・Tではないしなあ」とさらにモヤモヤしている人がいます。そういった方々についてはどうお考えですか?

たしかに、日本ではL・G・B・Tと4つの概念にスポットが当たりがちですが、私たちはもちろん「QA+」にも目を向けています。そもそも、多様性は集団だけでなく個人の中にもあるものですし、それこそが個性ではないかと考えています。セクシュアリティに関しては、「今このへんのグラデーションに漂っているんですよね、自分」くらいラフに言えたらいいですよね。でもそれが「人に言えない」となると、「抱えなければいけない」につながります。「家族や身の回りの人に知識がないから相談できない……」と困っている人も多いです。

 

だから物語コーポレーションさんでは、イベントに家族を呼ぶといったケアもしているのですね。

 

物語コーポレーションの未来

そういえば、「恐れるな もったいぶるな うもれるな」と掲げていますが、これはどういう意味なのでしょうか?

これは主にキャリア採用の方に向けたメッセージです。キャリア採用の方には、「物語コーポレーションは企業DNAが濃いらしいし、馴染めるか不安」「今までの会社では結果を残せたけど、ここではどうだろう」といった不安を抱いている方がいます。そんな不安を抱いている彼らは、「言いたいことあるけど、仕事に慣れてからだな……」「万が一嫌われたら嫌だし、言わないでおこう」と発言を抑えてしまいます。本当は入社時が一番客観的に物事を見ることができる、言いたいことはたくさんあるはずなのに。
だから、「恐れることはない。もったいぶっていたらその間に組織に同化して、あなたのオリジナティが失われ、埋もれてしまうぞ」との思いから、「おそれるな もったいぶるな 埋もれるな」と伝えています。

 

なるほど、キャリア社員へのメッセージなのですね。物語コーポレーションさんは中途採用についてもキャリア採用と呼び、キャリア社員が活躍できるよう、ダイバーシティの一環として取り組まれていますよね。まだ新卒純血主義のような風潮があり、人材の流動性に対応できていない日本企業にとってはその点も学びがあると思います。

 

今後目指す会社のビジョンや、JobRainbowに期待していることはありますか?

LGBTは社会の10%近くを占めていると言われています。そのため、社内でオープンにしている人が10%くらいという状況になるといいなと思っています。これはカミングアウトを強制するものではなく、言いたい人がためらわずに言える環境を作りたいという想いからです。
自分のセクシュアリティがわからない人が「いまちょっとよくわからないんだよねー」と言えるくらいなんでも言える環境にすることで、意思決定に関しても発言しやすく、イノベーションにつながります。だからどんどんダイバーシティを推進していきたいです。

JobRainbowには、LGBTの方がどうすればもっとリラックスできるか、知恵を貸してほしいです。企業の株主総会などを見ると、スーツを着たおじさんがずらっと並ぶことも多いなか、幹部層の半分くらいを若い人、女性、アングロサクソン、チマチョゴリを着た人、そしてもちろんLGBTの方など、多様性のるつぼにしていきたいです。数字だけ下駄を履かせて内実が伴っていない企業もありますが、誰も幸せになりません。

 

こちらこそ、よろしくお願いします。本日はありがとうございました。

最後には野望も語ってくれた加治社長。
従業員の多様な「物語」が尊重される物語コーポレーションは、今後さらにLGBTフレンドリー企業として存在感を増していくでしょう。

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